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社会実装コンテストの6年を振り返って
~科学技術イノベーション教育の一事例と期待~


東京工業高等専門学校 特命教授 佐藤 知正

2017.3.24

 科学技術の“社会実装コンテスト”は、2011年に東京高専3チームの参加から始まり、その後文科省大学間連携事業“Kosen発イノベーティブジャパンプロジェクト”に採用され、本年度は21高専59チームによる競技会へと発展してまいりました。
  社会実装コンテストの手順は、まず、1)実現すべきサービスコンセプトを考え、その実現に必要なモノ、システムをつくり、2)実現したモノやシステムを実社会(現場)へ持ち込んでテストし、3)現場での声に基づいた改良を実施し、4)そのプロセスをコンテスト形式で発表して順位を決めるというものです。
 社会実装コンテストのメリットは、コンテスト由来のものと、社会実装由来のものに大別されます。コンテスト由来のメリットの第一は、ロボットなど実際のモノやシステムづくりが、学生の心に火をつけることにあります。第二のメリットは、コンテストがチームで実施されることに由来します。疑似社会を構成する活動から、座学では学べないチームワークやかけひき等が体得できます。また、社会実装コンテストの社会実装由来のメリットに関しては、まず、モノやシステムを実際のユーザーに試用してもらうため、それを使っていただく方に、頭をさげてお願いするという経験ができます。また、ユーザーの声を聞くといっても、ユーザーは単に「使いにくいよ」としか言ってくれないことも多く、そのユーザーの言葉を工学の言葉に翻訳しなければならないという、エンジニアリングリテラシー教育の恰好の機会が得られます。また、一年近くユーザーと共に活動していると、最終的には、ユーザーからお褒めの言葉をいただく結果となることが多く、手ごたえを素人のユーザーから直接得られることもメリットとなります。
 実際このようなメリットを活かしながら社会実装コンテストは、2012年度は7高専14チーム、2013年度に10高専30チーム、2014年度は11高専38チーム、2015年度には12高専49チーム、前述したように2016年度(最終年度)は、21高専59チームへと、熱心な参加者をふやしながら発展してまいりました。
 これまでの活動を通じて、社会実装コンテストに含まれるプロセスは、実は科学技術イノベーション(社会変革)と同様のものであることがわかってきました。それらは、コンセプト構築、社会実装モデル構築、技術開発と、これらの統合、システムの現場適用、フィードバック、啓発・宣伝、規則を考えるの8プロセスです。この観点からコンテストは実体験を介して科学技術イノベーションを学ぶ格好の機会となっていることが明らかになりました。さらに科学技術イノベーションの発展段階(実験室、社会実験、社会実装、そして社会普及の4つの段階)を加味して、科学技術イノベーション手法やツールを、8×4のマトリクスで整理した教材“科学技術イノベーションイントロ講座(社会実装イントロ講座)”もできました。
 ここで育ったエンジニアが今後の日本の社会や産業に重要な役割を果たすと考えております。 社会実装コンテストが来年度以降も継続・発展することを祈念しつつ、最後にここまでこれたことに対する皆様方のご協力に感謝申し上げます。楽しい思いをしつつ、活動させていただきました。
 

<4年間の回想と社会実装教育のさらなる発展を期待して>


東京工業高等専門学校 特命教授 
丹野浩一
2017.3.24

 究極のPBL教育とも言える“社会実装教育”の取り組みは、関心を寄せ意欲的に取り組む先生方の協力により、年々内容の濃いものになって、目指す姿が少しずつ明らかになってきたように思います。取り組みの中には未熟な取り組みも散見されはしますが、「高専生もなかなかやるなあ~・・」と目を見張る取り組みがたくさん見られました。適切に教育環境を提供しさえすれば、若く柔軟性を持つ学齢の時に学ぶ高専教育に優位性があることを再認識させられました。
 経験が蓄積されつつありますので、これからは「これが高専教育の特色だ!」と言えるよう教育手法を体系化させ、社会と共に取り組む環境を整備する段階になると思います。全学生に体験させることは容易なことではありませんが、この教育の必要性を主張し、組織をあげて継続的に取り組めばきっと成しえることと思います。そのためにはまず教員ひとり一人がそれぞれの立ち位置で、社会との連携活動に積極的に関わり、社会の現況、課題に肌で触れることが必要です。技術者教育を主張する高専が先駆的な役割を示すことが出来るよう、鋭意、継続して取り組むことが大事だと思います。この教育は社会や産業界などとの連携をベースにおくことから、産業界や社会の理解が不可欠です。新しい価値創造を生み豊かな社会へと変革を促すことが出来る技術者育成の重要性は国を挙げて叫ばれているにも関わらず、その実はまだ十分でありませんので、経験を重ねた方々が声を大きくして連携の機運を盛り上げていく必要があるように思います。
 これまで教育・研究に熱心な先生方とふれ合い、またそれぞれの専門分野に造詣の深い特命教授の先生方と仕事をする機会を得て、大変刺激を受け楽しく仕事が出来ました。とくに矢野特命教授により、戸隠の山中の宿で行われたKJ法の合宿などは、老体にむち打ち久しぶりに半徹状態で若い先生方と一緒に研修出来たことは良い想い出になりました。錆び付いた頭が柔らかくなったかどうかは別ですが・・・
最後に、高度化・複雑化する時代にあって、高専がこれまで評価されて来た専門的技術力を大事にしながらこの教育も組み込んで行くためには、教育全体を見通したしっかりした設計コンセプトとカリキュラム構築が重要です。自らの成長を求めて高専に夢を持って入学してきた学生を、一人でも多く成長させて行く教育の発展・充実が図られることを願うとともに、社会実装教育がみなさまの協力によって今後ますます成長していくことを心から祈念します。
 

-事業5年間の振り返りと今後への期待-


東京工業高等専門学校 特命教授 中澤達夫
2017.3.24

 「KOSEN発“イノベーティブ・ジャパン”プロジェクト」が一段落を迎えました。私にとって最大の収穫は、この5年間で学生の皆さんが当初の想像を超えて大きく育ってくれたことです。コンテスト(現在は「フォーラム」)に向けての課題選定では社会の必要とする課題を取り上げてイノベーションを生み出す可能性を感じさせる取り組み方が定着してきたように思いますし、プレゼンテーションの様子にも長足の進歩が見られます。もちろん、参加学生の多くは年ごとに入れ替わってもいますが、先輩から後輩へと着実に「社会実装」の意義と面白さが伝わってきている手応えがあります。
 矢野特命教授のご指導のもとで推進してきた「高専研究」の結果からは、改めて高専の特徴が浮き彫りにされ、高専が今後取り組むべき方向が示唆されたと思います。また、社会実装フォーラムに向けての学生さんたちの取り組みの様子や高専研究の内容等を地域の企業の皆様に紹介したところ、大変興味を持ってくださると同時に、具体な課題提案をして頂ける企業や自治体様が次第に増えてきました。産業界はまさにこういう教育を受けた卒業者を待っていたのではないかと感じます。また、プロジェクト中に実施した企業のトップに学生が直接インタビューして記事にまとめる取り組みは、学生が改めて企業という社会を知る大変良い機会になりました。実施数は少なかったですが、参加した学生さんはもちろんのこと、ご協力いただいた企業トップからも好評で、厳しくも温かいお言葉をかけていただくことができました。
 「社会実装教育」はまだ始まったばかりともいえます。幸い、「社会実装イントロ講座テキスト」も出来上がりますので、全国の高専で活用してこれからも社会実装教育に取り組んでいただければと思います。
 このプロジェクトのスタート時に、「私は『教育機関と社会・地域・企業の連携の観点からの事業推進』という(いささか荷の重い)役割分担を頂きました」と書きましたが、微力な私にとってまさに荷の重い、しかし大変やり甲斐のある仕事で、皆様と楽しく協働させていただくことができました。期限の決まっていた「プロジェクト」は終了しますが、社会実装教育の取り組み自体はここで一段落するだけで、更に続いて広がっていくことを期待しています。
 最後になりますが、本事業にご参加ご協力を頂いた大変多くの皆様に心より厚く御礼申し上げます。
 

高専のさらなるご活躍を楽しみにしています


東京工業高等専門学校 特命教授 矢野眞和
2017.3.24

 「実験から問題の本質をつかむ力」「自分で考えながらものづくりする力」「新たなアイデアや解決策を見つけ出す力」「協働する力」「プレゼンテーション能力」。エンジニアに必要な力はこの五つに集約できるのではないかと考えました。高専卒業生の調査票づくりを議論した過程で提案された項目の一片です。アンケートという調査法の限界は免れませんが、学校を卒業した時に、これらの能力が「十分身についていた」から「まったく身についていなかった」までの5段階で自己評価してもらいました。「卒業時」だけでなく、「現在」どの程度身についているかも質問し、この五つの平均スコアをエンジニアの「汎用能力」と呼ぶことにしました。
 単純にすぎるかもしれませんが、この指標がけっこう面白かった。「実験・実習」や「インターンシップ」に「熱心に取り組んでいた」学生ほど「汎用能力」スコアが高いという傾向がはっきり現れました。その一方で、「学業成績」と「学校生活の満足度」も質問していますが、この二つはともに、「実験・実習」や「インターンシップ」の熱心度とは無関係でした。学業成績が優れている学生は、「実験・実習」ではなく、「専門科目の講義」に熱心であり、満足度が高いのは、「よい友達と巡りあえた」か、どうかが一番大きな要因です。三者三様のキャンパスライフがはっきり浮かんできて興味深い。それだけではありません。「現在」の汎用能力は、学業成績や学校満足度が高いほど高くなっており、この汎用能力が、「現在の仕事」の満足度のみならず所得や職位にも大きな影響を与えています。
 高専研究の最後にリアセック株式会社のPROGテストにも実験的に参画しました。社会実装教育を経験した100人程度を対象にしたミニ・テストです。実験というのは、PROGと並行して実施した「学業成績」「学校満足度」「汎用能力」などのアンケート調査です。社会人基礎力ともよばれているPROGの「コンピテンシー・スコア」は、学業成績や学校満足度との相関係数が0.1未満(無相関)にすぎないのに対して、5項目の汎用能力との相関係数は0.5という高い数値を示しました。汎用能力の5項目提案は、はじめに想定した以上に有効だと思われ、社会実装教育の理念に即したコンセプトでもあります。汎用能力というよりも「社会実装力」と呼んでもいいのではないかと思ったりしています。社会実装教育のさらなる発展を期待していますが、その学習成果の検証もあわせて進めてほしいと願っています。なお、高専研究の成果はすべてウェブに掲載したのでそちらをぜひ参照してほしい。