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特命教授コラム

 
“イノベーティブ・ジャパン” プロジェクトの背景にあるもの(3)
東京工業高等専門学校 特命教授 丹野 浩一

 先日、産経新聞に就活に関する記事を目にしました。それによれば経団連が毎年発表している、企業が選考時に重視する要素のうち学生に求める能力の第1位は「コミュニケーション能力」だそうで、しかも9年連続1位になっているとのことです。これほどまでになぜ産業界はコミュニケーション力を重要視するのでしょうか。これは「文系に求めていることではないのか?」との声も聞こえてきそうですが、そんなことはありません。技術系にも同じように求めているのです。このことは当社会実装プログラムが目指す技術者に必要な用件のひとつにもなりますので具体的な声を紹介しておきたいと思います。

 これまでいろいろな場面での産学連携による技術系人材育成会議に出席してきましたが、技術者として社会人として必要なこととして、企業から学校教育に求めることの一つとして、コミュニケーション力や人間力の向上が事あるごとに取り上げられて来ました。挨拶が出来ない人やコミュニケーションをとることが苦手な人が増え業務に支障を来しているというのです。しかもこのことは高校卒者から大学卒者まで、そして文系、理系の出身者に限らず指摘されています。またしばしば高専卒業生の中には、専門力は優れているがコミュニケーションが苦手な人も少なからずいるとも言われますので付記しておきたいと思います。

 もう15年以上も前になりますが、精密工学会が企業に対し、工学系大学学部卒者が身につけておくべきことに関するアンケートをとったことがあります。その報告会におけるプレゼンの締めの一画面に大学工学部卒に求める要点をまとめたものがありました。その内容は次のようなものでした。大学学部(高専にも当てはまる)では「工学的常識を持った社会人を育てていただきたい、工学的常識とは高校卒業レベルの知識を持ち、その依って来たるところを知り、応用できること」と言うものでした。大学学部卒に対して高卒レベルとは心外だと言う意見もあるかも知れませんが、ここで言っていることは暗記では無くしっかり応用できる程度にまで完璧に習熟していることを指しているのです。そして「知らないことに出くわしたときに自分で解決する道を知っていること」、社会人とは「挨拶が出来る人」と締めくくられていました。ここでも挨拶の必要性が強調され、また課題解決能力の重要性にも触れられています。

 また大分以前になりますが、おもちゃの博士で著名であった東北大学名誉教授の酒井高男先生のコラムが地元紙に掲載されたことがあります。その中で、先生は「勉強が出来るというだけでは十分ではない、持てる能力を社会のために役立ててやっと一人前、そのための能力も磨きなさい」と述べ、社会と関わりを持ち、能力を社会のために役立てることが出来るような姿勢を持つことを強調しておられました。これを実行するときに大事になるのも挨拶であり、コミュニケーション力です。

 これら「挨拶が出来る人」ということについて、高等教育機関ではこれまであまり気にも止めず軽視されてきたように思いますが、これからの技術者にコミュニケーション力は不可欠であり、挨拶の糸口として大事なことです。技術は年々高度化、複雑化して来ていますから、一つの専門だけで仕事が出来る時代ではなく、いろいろなところで異なった役割を持つ人と情報を交換したり、プロジェクトを組んで協力し合って仕事をしたりすることが多くなっています。また顧客との交渉など対人関係の中で仕事をするなど、これまでにもまして他者との関わりを以て仕事をする機会が増えて来ています。しかもグローバル化社会の中で、その相手が外国人ということが当たり前になる時代ですから、いろいろな考えを持つ人と意思疎通が出来る豊かな人間性も必要になってくるでしょう。語学とともに人間性を高めていく努力がとても大事になります。これらのところで求めている挨拶という裏には、社会人として必要なマナーをはじめ教養を磨き幅広い人間性を身につけることを指していますが、まずは笑顔で挨拶する習慣を身につけて下さい。そうすれば互いに心を開き合うことが出来て、自ずと相手の話に耳を傾け言わんとしているところを的確に聞き取ったり、自分の考えを理路整然と話すなどのことが出来るような対話力の向上へと成長していくと思います。

 本イノベプログラムでは、これからの技術者に必須な資質のひとつとして意識して挨拶することを心がけ、また積極的にいろいろな場に臨み、分野の異なる多くの方々とコミュニケーションを図る努力を身につけることも目指しています。このことが身につけば、社会に出て課題を見つける際に話題も広がり、多くの課題を見つけたり、問題点の整理が的確に出来たりすることにも繋がるでしょう。以上の事を常に意識して行動すれば次第に視野が広がっていく自身の成長を実感できる日が来るでしょうし、強みの専門力もより広く活かすことが出来るようになるものと思います。