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特命教授コラム

 
ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~(全3回シリーズ2/3)
東京工業高等専門学校 特命教授 佐藤 知正
2015.08.07

≪前回 ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~1/3 (全3回シリーズ)



ロボット革命のすすめ2:社会のあるべきイメージ

1.ロボット革命の思想=ロボット社会のあるべき姿

1-1生産の革新の必要性
 さて、話をロボット革命が今、叫ばれている理由に戻そう。
 日本は、これまで、世界に冠たるものつくり国として自動車をはじめとするメカトロニクス製品を世界に輸出してきた。1990年代からは、この集中豪雨的輸出を避けるべく、また2000年代にはいってからは円高の悪影響を回避すべく、工場の海外移転がすすみ、ものつくり産業の空洞化を生んでいる。ものつくりは、付加価値も高く、日本人の特性に合致した産業である。ものつくりの国内回帰を促す“ものつくりルネサンス”が、強く求められている。


生産革命の具体的イメージ(ワークシェア)


 モノつくりにおいては、産業用ロボットがこれまで重要な役割を果たしてきた。一度、きちんとした生産手順を産業用ロボットに教え込んでさえおけば、教えたとおりの高い品質の製品を、大量に生産することができる。人が作業する場合は、作業によって疲れたり体調により作業品質がばらついたりするが、これまでの産業用ロボットでは、精密な繰り返し作業が実施できるという、人にはできないロボットの特性を活かして、大規模な工場での信頼性の高い製品の大量生産に貢献してきた。
 これに対し、現在は、人々の要求が多様化してきたことを受け、中小規模の工場で、少量の製品を多種類生産することが求められている。このような多種種少量生産、ないし、変種変量生産は、これまでの少品種大量生産とは、質的に変化した革新的な生産方式である。つまり、これまでの大工場では、柵により人とは隔離された産業用ロボットが、生産ラインの近くに陣取り、黙々と繰り返し作業を実施してきた。これに対し、これからの中小規模工場では、人と並んで産業用ロボットが協働することになる。まさにロボット革命の重要な対象分野である。産業分野のロボット革命は、ワークシェアという働き方を実現することになる。

1-2 生活の革新の必要性
 ロボットという言葉は誕生から100年近く経つが、いわゆる“ロボット学(ロボティクス)”は1960年代に人工知能の一分野として始まった。現在、これまでに開発された技術が、前述の産業用ロボットはもちろん、お掃除ロボットなどの生活用品などに活用されている。また、災害対応や医療や介護などのサポートまで、様々な分野に活用されることが期待されているが、この分野では、まだ学術研究の範囲にとどまっており、広く社会に普及し、活用される段階までにはいたっていない。


革命的な点(共棲生活)


 生活支援ロボットが普及しない理由は、なぜだろう。何が足りないのであろうか?
 ピアノの普及を例に、考えてみよう。あるピアノ会社は、1)いいピアノをつくることばかりでなく、2)ピアノのユーザを広げるための“ピアノ教室”を開設し、そして3)ピアノを買いやすくするための“ピアノローン”を設置するという『“モノつくり”と“サービスつくり”と“社会のシクミつくり”を三位一体として実施することにより、ピアノの普及限界に、第二次世界大戦後の比較的早い時期に近づけることに成功したといわれている。これを現在の生活支援ロボットにあてはめてみると、残念ながら、個別に1)の“ロボットつくり”や、2)“サービスつくり”が実施されているにすぎず、それらの生活支援ロボットや生活支援サービスを社会に導入しやすくする3)の“社会のシクミつくり”と三位一体となったアプローチがとられていないのである。

 生活支援ロボットが普及しない理由は、なぜだろう。何が足りないのであろうか?
 ピアノの普及を例に、考えてみよう。あるピアノ会社は、1)いいピアノをつくることばかりでなく、2)ピアノのユーザを広げるための“ピアノ教室”を開設し、そして3)ピアノを買いやすくするための“ピアノローン”を設置するという『“モノつくり”と“サービスつくり”と“社会のシクミつくり”を三位一体として実施することにより、ピアノの普及限界に、第二次世界大戦後の比較的早い時期に近づけることに成功したといわれている。これを現在の生活支援ロボットにあてはめてみると、残念ながら、個別に1)の“ロボットつくり”や、2)“サービスつくり”が実施されているにすぎず、それらの生活支援ロボットや生活支援サービスを社会に導入しやすくする3)の“社会のシクミつくり”と三位一体となったアプローチがとられていないのである。

 具体的な例で説明する。ある高齢者(ここでは鈴木さんと呼ぼう)が、ひざの痛みを覚えたとしよう【課題の発生】。しかしながら、鈴木さんにとっては、“ひざが痛くなった“という問題は自覚できても、どのような生活支援機器や生活支援ロボットを活用すべきなのかは、明らかでない。必要な日用品を手に取って購入できる“コンビニエンスストア”のような社会のシクミが、生活支援ロボット分野には存在していないのである。もし将来、福祉ロボットの分野にこのようなコンビニエンスストア(サービスコンビニと呼ぼう)ができれば、次のようにして人とロボットとが共棲する社会が可能になる。1)日常品を手軽に入手できる“コンビニ”と違って、生活支援ロボットや生活支援サービスを手軽に入手することを可能とするこれからの“サービスコンビニ”は、ネットワーク上に存在するお店である。この『サービスコンビニ』を、高齢者である鈴木さんがインタネットなどを通じて呼びだし、自分の問題点(この場合は、ひざが痛くなったこと(課題)を伝えると、サービスコンビニでは、これまで蓄積した多数の高齢者のデータの中から、鈴木さんに、似た症状や境遇の人を検察し、それとともに、鈴木さんの趣味が園芸であることも聞き出して、鈴木さんに向いた生活支援ロボットや関連サービスを提案する【解決法の提案(潜在化しているニーズの顕在化)】。2)鈴木さんは、提案されたサービスやそれを可能とするロボットの中から、自分にあったサービス(歩いてゆける近くの園芸教室)やそれを可能とするロボット(歩行支援ロボット)を選ぶ【ロボットやサービスの選定】。3)このようにして、自分で選んだロボットと一緒に生活することで、ひざの痛みを克服しつつ、趣味の園芸教室に通うなどして、元気生活を続ける【ロボットと共棲する生活】。これが、これからの生活支援ロボットとの共棲生活の一断面である。このような生活支援ロボットは、個人個人によって、異なるし、同じ個人であっても、その時期によって変化してゆく。これに対応するのは、これまでの大量生産のロボットとは異なる革命的なロボット、個人ロボットが求められるのである。


1-3 将来のロボットの2つの方向性
 日本ロボット学会では、ロボットのこれまでの50年の歴史を構造的に整理し、それに基づいて今後の50年を展望するロボットアカデミックロードマップを議論し、その結果を日本ロボット学会誌(2005年10月号)に掲載するとともに、現在もそのHPから入手できるようにしている。そこでは、ロボット開発の今後の方向性として1)人の中に入る方向性と、2)街に入る方向性の2つを提示している。1)の人の中に入る方向性としては、例えば、サイボーグ的なものやロボットスーツ的なものが、人の身体機能の強化やサポート的用途を担う姿を示している。例えば、100kgの荷物をしょって時速60kmで走れるようにする、といったイメージである。その一方で、2)の街に入る方向性としては、例えば、街頭カメラなどと連動した道案内などのような生活インフラ的サポート機能、つまり、見通しの悪い四つ角などをカメラが見ていて、衝突を未然に防ぐ、といったイメージのものを提示している。 


革命的な点(ロボット化)


 いずれの方向性においても、人体内のモノから、日用品、自家用車、住宅や家具など身の回りにある“モノ”まで、それとともに、人の生存から、生活、交通、社会インフラ維持までさまざまな“サービス”までをロボット化する姿を示している。このロボット化という考え方は、これからのロボット社会を考えるうえで重要なものである。例えば、自動車がロボット化されると、安全支援自動車や、自動運転自動車や遠隔運転自動車が実現される。工場がロボット化されると、先に述べた協働ロボットと人とのワークシェアが可能になる。ロボット化された病院では、人よりも精密な手術ができる手術支援ロボットやリハビリ支援ロボット、さらに、看護師の代わりにロボットが必要なものを運んでくれたり患者の移動を支援したりするロボットが活躍する姿がイメージできる。建設工事におけるロボット化工法では、遠隔操縦されたロボットが従来の工法に導入されることで、情報化、協働化がさらに推し進められた姿がイメージされる。ここに述べたような、人体内のものや、これまでの日用品や工場や病院、工法等などがロボット化するという方向性は、単にロボットをつくるのみでは不十分である。ロボット化することで、対象を従来とは一線を画するものに変容させることが可能であり、したがって、これまでの日用品や工場や病院、工法を従来の延長線上で高付加価値化するのとは一線を画するアプローチ、つまり社会のありかたを変えるアプローチをとることが不可欠である。これは、機械を動かすロボティクスのみでなく、社会を動かす機械としてのロボティクスを追求することになる。つまり、従来のやりかたとは非連続的なアプローチであるという意味で、革命的試行が求められるのである。ロボット革命の重要な対象分野である。生活支援分野のロボット革命は、人間との共棲生活という新しいライフスタイルを実現することになる。


ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~(第3回)へ続く
 
これまでの佐藤知正特命教授の記事

・ ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~3/3 (全3回シリーズ)
・ ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~2/3 (全3回シリーズ)
・ ロボット革命のすすめ~科学技術社会実装活動~1/3 (全3回シリーズ)
・ 部屋がロボット(1)




佐藤 知正
SATO TOMOMASA

東京工業高等専門学校
特命教授
前東京大学大学院情報理工学系研究科教授
東京大学フューチャーセンター推進機構 RTイノベーションコンソーシアム特任教授