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特命教授コラム

 
コミュニケーションを考える
東京工業高等専門学校 特命教授 中澤達夫
2015.10.15

  社会実装の取り組みでは、実際に社会で必要とされる道具や技術を開発するために、それを利用する人の話や意見を直接聞く事が一つの重要なポイントです。この「聞く」ための対話はどうすればよいのかが、ここでコミュニケーションについて考えるきっかけです。


▋社会実装でのコミュニケーション

 社会実装の取り組みを始めたばかりの頃の、担当学生の成果報告の言葉の中で、もっとも話題になったものの一つが「おじいちゃんおばあちゃんと仲良くお茶を飲めるようになることから始まりました」というものです。これは、端的にコミュニケーションの大切さと難しさとを表しているとも言える体験談です。つまり、高齢者向け施設へ「ニーズを探しに」行った学生さんが、高齢者の方たちからホンネの話を引き出すまでに苦労したことを表しているのですが、少し硬く言えば、まずは「お互いに人として分かり合うこと」ができないと、ホンネを引き出すことどころか、こちらが期待している内容の会話をすること自体が簡単ではないということだと思います。社会実装のテーマに実際に取り組んだ学生さんたちの多くは、場面は違っても、似たような体験をしていると思いますし、その苦労した体験自体が「社会実装」に取り組むことで得られる大きな意義の一つです。


▋さてコミュニケーションとは

 「コミュニケーション」が大切であることは、色々な場面で話題になりますが、さて、改めて「コミュニケーション」とはどういう意味なのでしょうか。まずは辞書で調べてみると、「人間同士が意思や感情、思考を伝達しあうこと(デジタル大辞泉)」となっています。ですから社会実装においても、ステークホルダ間でコミュニケーションがうまく行っていていれば、本当に言いたいこと、伝えたい事の意図がきちんと伝わりやすいということになります。この入口が、例えば、最初に例を出した「一緒にお茶を飲んで世間話をする」ということなのですここが大変重要な出発点で、お互いがうまくコミュニケーションを取る努力をせずに、それぞれの思い込みなどで勝手に納得した気になってしまうと、あとになって「話が違う。そんなことは聞いていない(言っていない)。」などというトラブルに繋がることが心配されます。


▋経験や立場によって言葉の意味が違うことがある


 社会実装の取り組みでは、いろいろなステークホルダとコミュニケーションする必要があります。その相手の一つの例がエンドユーザとしての高齢者であるわけですし、開発の過程では企業等の専門家の指導助言を受けることや、また場合によっては自治体などの関係者に条例などの規則について助言を受けることもあります。
 このとき気をつけたいのは、たとえ同じテーマを担当しているとしても、会話をするそれぞれの人の背景、つまり生活環境や仕事(専門)、あるいは興味の方向性などによって、言葉の使い方や伝わり方が違ってくる場合があるということです。「常識」というものの内容が、必ずしもすべての人に共有されているわけではなく、ある言葉が予想もしなかったような違った意味にとられることもあります。それが、思わぬ誤解や勘違いのもとになる場合があります。したがって、「うまく」コミュニケーションするということは、けっこう大変です。ただし、ここで言いたいのは「コミュニケーションは難しい」ということではなく、スムーズなコミュニケーションのためには、ちょっとした気配りをすることも重要だということです。
 それぞれの人たちが、普段自分たちがコミュニケーションしている環境のつもりで話をしようとすると、うまく通じなくなることがあります。同じ専門分野の方との会話であっても、例えば略語が示す内容が異なっている場合があります。仕事や会社内での用語の使い方と、学校で習っている教科書の記述では、専門用語の使い方が多少違うことがあります。同じ分野でもそうなので、機械工学と電気工学など少し異なる分野の専門家の間で制御技術の話をするときなどは注意が必要です。
 法律や規則などについて自治体や地区の方と話をする場合は、高専の学生の皆さんには馴染みがない内容のものが多いのでむしろ問題が起きにくい、つまりわからないことは聞けば良い、ともいえますが、やはり勝手に解釈してわかったと思い込まないことが大事です。


▋正確に伝え、受け取るということ

 一口に「コミュニケーションする」といっても、実際の手段には、言葉や身振りで伝える場合、文書で伝える場合などいろいろな形が考えられます。対面して話をするコミュニケーションの場合は、言葉そのものだけでなく表情や話し方などからもわかることが沢山あります。相手がその話題に強い興味があるのかそれほどではないのか、などを「雰囲気」からある程度感じ取ることができる場合があります。同じ言葉によるコミュニケーションでも、電話など顔が見えない場合には、この点が難しくなりますが、はっきりしないことは「聞き返す」ことで補えます。これが、顔が見えるか見えないかにかかわらず会話によるコミュニケーションの利点です。

 社会実装の場面に限った事ではありませんが、会話でのコミュニケーションがうまくいくのかどうかは、相手の話題に興味が持てるか、自分が話す話題に相手が興味を持ってくれるか、が大事なポイントの一つで、うわべの言葉だけではなく、心を伝えることが大切です。
 ここでは取り上げませんが、電子メールでのコミュニケーションは、ちょっとした言葉の受け取り方の違いがトラブルのもとになることが結構多くあります。一方で、打合せ日時や場所の相談などの内容の場合、メールなら記録が残ることが便利です。従って、十分なコミュニケーションのためにはなるべく言葉でのコミュニケーションと合わせて利用することをお奨めします。


▋英語(外国語)でのコミュニケーション

 少しポイントを移して考えてみます。「グローバルなコミュニケーション」ということが話題になって久しく、英語やその他の外国語の必要性が強く言われています。実際に企業の現職技術者の方にお話を伺うと、高専を中心とするいわゆる工業系で学ぶ学生が頑張っておくと良いこと、という項目に必ずと言っていいほど「英語(外国語)に慣れておくこと」が挙げられます。英語というとよくTOEICの点数や検定資格などが取り沙汰されます。そういうテストは、いわゆる基礎力を測ることができるのでその意味で重要ではありますが、実際のコミュニケーションではそれだけでは測れない大事なことがあります。それは、これまでに述べてきた、「相手を思いやり、理解し、こちらの思いを正確に伝える」という内容を伝えようとする姿勢です。
 英語は「国際語」と認識され、世界中の様々な地域でその地域特有の訛りがあったり少々文法も異なったりする英語の一種が使われています。「正しい英語」とは何なのかがだいぶ曖昧になってきていて、発音などについても地域色が色濃く出た、いわゆるブロークンな英語もかなり受け入れられており、伝えたい内容と熱意があれば、ある程度役に立つものです。綺麗な発音や正確な文法の習得を目指す努力はいつも必要であることは間違いありませんが、今の自分の知っている英語の範囲でも伝えたい事を一生懸命表現すればコミュニケーションは成り立つことも多いです。機会があったら「まだ英語は十分勉強できていない」などと臆病にならずに話してみてください。伝えたいことと熱意があれば、何かしら伝わるものだという大事な経験をすることができると思います。
 日本語でも外国語でも一緒ですが、対話の相手に共感するのは相手の考えが理解できるときでしょう。特に外国人が相手の場合、相手の文化などにある程度の知識があるか、または、一般的な文化ということ(日本文化を含みます)に興味を持っているかで、伝わり方が大きく違ってきます。そういう、言語だけではない広い基礎的な知識が、コミュニケーションの場面で役立つのです。
 これは、実は社会実装の実践の場面にも必要なことだと思います。自分の専門とは全く違う分野の専門家や、あるいは一般ユーザの意見を聞くとき、自分の尺度や常識でその価値を知ろうとすると、判断を間違ってしまうことがあります。単に必要なことだけ聞き出せばよいと考えるのではなく、広く相手の言うことに興味を持って耳を傾ける努力が必要です。


▋グループのコミュニケーション

 社会実装の取り組みでは、グループを作ってテーマに取り組むのが一般的なスタイルです。このグループの中では当然コミュニケーションが十分に取れることが重要です。しかし、コミュニケーションが取りにくい関係者とはグループを組むことができないのでしょうか?それでは、多くのステークホルダと協力して社会実装進めるということは、夢に終わってしまうおそれがあります。
 少し大げさな例かも知れませんが、海外では、多様な人種、宗教などの人が集まってグループを作ることが当たり前に起こるので、それぞれの価値観がすれ違って自己主張が衝突し、問題を起こしてしまうこともあるようです。そういう事態を避けるためもあって、皆が顔を合わせるミーティングで十分コミュニケーションして、ミーティングの参加者全員が納得するまで話しあうそうです。日本では、比較的近い考えを持った人たちがグループを作る事が多く、こういう問題は起きにくいと思われているのですが、実際には気をつけなければなりません。身近な例で言うと、「あれ」「それ」などの言葉で伝えることができたと思っていたことが、実は誤って解釈されていた、などということがあります。正しくわかってもらうためには、曖昧な言い方は避けるべきだと思います。コミュニケーションでは、無用の曖昧さをできるだけ無くすことが望ましいですね。

▋コミュニケーションは楽しく

 いろいろ思いつくままに、コミュニケーションということについて考えてみました。
どんな場面でも、コミュニケーションのためには自分の「思い」をもつことが重要です。しかし、それが相手に誤解なく伝わらなければ、特に社会実装の取り組みのように、多くのステークホルダと一緒に何かを進めることは難しくなってしまいます。楽しいコミュニケーションのためには、相手を思いやる、理解しようとすることが大事になります。そうは言っても、あまり固く考えすぎることはないので、いろいろなことに好奇心を持てば、楽しいコミュニケーションをスタートさせることができるでしょう。
 
これまでの中澤達夫特命教授の記事

・ 文書のコミュニケーションと”6W1H”
・ コミュニケーションを考える
 社会実装あるいは課題解決型実習の取り組み方
・ 自動演奏楽器(3)
・ 自動演奏楽器(2)
・ 自動演奏楽器(1)



中澤教授中澤 達夫
NAKAZAWA TATSUO

東京工業高等専門学校
特命教授
長野工業高等専門学校名誉教授
長野工業高等専門学校地域共同テクノセンター特命教授